2014年08月13日

パーソナルゲノム

日本でも、DTC(Direct to Consumer:消費者直販)での遺伝子検査が始まりましたね。

DeNA は、東大医科研のゲノム解析センターと提携して MYCODE というサービスを提供開始しました。これは、全ゲノムを調べるのでなく、SNP(Single Nucleotide Polymorphism)を解析するサービスです。

SNP には個人差があり、それが、その人が特定の病気に罹りやすいか、薬が効きやすいか、薬の副作用が出やすいか、などに関連します。この MYCODE では、最大280項目について検査を受けることができるそうです。

しかしながら、SNP で『高リスク』だから絶対に病気になるわけではありませんし、『低リスク』だから安心していられるわけではありません。メタボ高リスクの方がジムに通ったり、食事を気をつけることでメタボを予防できるかも知れませんし、がん高リスクの方が、きちんとがん検診を受けることで早期発見と治療に繋がるかもしれません。

アンジェリーナ・ジョリーさんは、ご自身のお母さんも婦人科系の癌で早世されたことから、BRCA遺伝子を調べ、異常が見つかり、将来的にがんになるリスクが高いことから、予防的に乳房を切除することでリスクをなくす、という決断をしました。
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しかし、米国ではパーソナルゲノム解析に対して、消極的な反応が起きています。以前は 23andMe などのサービスが複数ありましたが、いまは当局の規制により、消費者に病気のリスクなどの情報を提供するサービスはなくなりました。

FDA(U.S. Food and Drug Administration:アメリカ合衆国における、医薬品などの規制当局)が、23andMe に対し、サービス提供を止めるよう発出した警告文の一部抜粋です。
Some of the uses for which PGS is intended are particularly concerning, such as assessments for BRCA-related genetic risk and drug responses (e.g., warfarin sensitivity, clopidogrel response, and 5-fluorouracil toxicity) because of the potential health consequences that could result from false positive or false negative assessments for high-risk indications such as these. For instance, if the BRCA-related risk assessment for breast or ovarian cancer reports a false positive, it could lead a patient to undergo prophylactic surgery, chemoprevention, intensive screening, or other morbidity-inducing actions, while a false negative could result in a failure to recognize an actual risk that may exist. Assessments for drug responses carry the risks that patients relying on such tests may begin to self-manage their treatments through dose changes or even abandon certain therapies depending on the outcome of the assessment. 

だいぶ要約すると、BRCA遺伝子(乳がんや卵巣癌のリスクに強い関連がある遺伝子)が、ホントは異常がないのに、異常があると診断されちゃったら、大変なことになるじゃないか!というような内容です。

たしかにおっしゃる通り。ほんとは異常がないのに、異常があると診断されて、乳房の予防的切除を受けるなんてことがあったら悲劇ですもんね。99.99% の精度でも1万分の1のエラーが起きますから。しかし、検査は『100%』じゃないのは、遺伝子検査に限らないはずですけど、なんで遺伝子検査だけ、そんなに目くじら立てるの?という意見があります。私もそう思います。

で、今回読んだのがこちら。

パーソナルゲノム解析の黎明期から、いまアメリカで起きている問題(23andMe の問題など)までが描かれています。
現段階ではゲノム解析でわかることは限られています。SNPでリスクが分かると言っても、280項目の SNP で全てが分かるわけではありませんし、これからもっと沢山の SNP と疾病との関連が明らかになってくれば、現時点では高リスクと診断された方も、将来的に結果がひっくり返る可能性があります。

ただし、病気の人から健康な人まで1万人くらい全ゲノム解析をバリバリ実施していけば、より詳細な遺伝子異常と疾病との関係が明らかになるだろうと思います。今後10年以内には、日常的な臨床の中にパーソナルゲノム解析の結果が採り入れられるのが普通になるだろうな、と感じました。

posted by 久住英二 at 18:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月27日

種痘伝来

かつて、世界には天然痘という恐ろしい感染症がありました。

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天然痘ウイルスが原因で、全身にブツブツができ、致死率が30%ほどもある、恐ろしい感染症でした。
しかし、人間にしか感染しないため、ワクチン接種により、世界から根絶することができました。(一方、鳥や豚にひろく感染するインフルエンザは、いつまで経っても根絶できません。なにしろ、この世界の全ての鳥や豚に、H7N9 とか H5N1 とか、H5N8 とか、あらゆる型のワクチンをあまねく接種する、なんてこと不可能ですから。ちなみに、麻疹や風疹も、ほぼ人間にしか感染しないため、人間だけにワクチン接種をしてしまえば、ウイルスは居場所がなくなり、増殖できず、根絶が可能です。)

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『種痘伝来』には、そのワクチンが日本にいかにしてもたらされ、国内で拡がったか、について詳しく描かれています。


天然痘のワクチン接種は種痘と呼ばれ、人痘接種と牛痘接種がありました。牛痘接種は、ジェンナーが始めたことで有名ですね。牛の乳搾りをしている人は、ときどき牛痘という病気になりました。その人達が天然痘に罹らないことから、牛痘に感染することは天然痘を予防する効果があると考えられたのです。

人痘接種は、本物の天然痘に軽く罹るため、ときどき重症化して死ぬこともある、リスクの高い方法でした。ですが、天然痘が流行している時であれば、人痘接種で天然痘に軽く罹る方が死亡率が低いので、皆が接種しました。しかし、非流行期においては皆が受けたがらないものだったそうです。

牛痘接種は、天然痘ウイルスの近縁のウイルスを用いたワクチンで、天然痘に罹るおそれがないことから、人痘に取って代わりました。長崎に輸入された痘痂(牛痘の水疱のかさぶた)での接種に成功した一人から、つぎつぎに人に継がれ、半年ほどの間に全国に拡がりました。

これを成し遂げたのは、蘭方医、つまり西洋医学を学んだ医師達のネットワークである、と記載されています。当時の徳川幕府は、シーボルト事件以来、蘭方つまり西洋医学を禁制としていました。さりとて牛痘の効果は認めざるを得ず、黙認されていたようです。最終的には、効果を認め、幕府が推進するようになりました。

一般の人々は、それでも牛痘を恐れたため、医師の桑田立斎(越後出身の小児科医!同郷にそんな偉人がいたとは!!)牛痘菩薩なるイラストを書いて、啓蒙に努めたそうです。

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牛痘の効果は、すぐにはわからず、後に天然痘が流行した時に、牛痘接種した人が天然痘に罹らないことが分かった、と。それが分かると、人は牛痘接種を乞うたと。

やはり世の中というのは、お墨付きの有無など気にせず、科学的に正しいと考えられることを自ら為す人たちのネットワークによって進歩していくのだな、と感じました。

風疹ワクチンを徹底することは、すぐには効果は分からないけど、将来の日本で風疹が流行しなくなることをもって、ようやく効果が知られるようになります。

遅々として対策は進まないけれど、弛まず已まず、自分ができることを進めていかなければならないのだな、という啓示をもらった一冊でした。
posted by 久住英二 at 06:00| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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