2016年07月08日

子宮頸がんなど HPV によって起きるがんは多くが予防可能

米国 CDC が発行する MMWR = Morbidity and Mortality Weekly Report は、米国でのインフルエンザなど感染症や、がんなど疾病の統計データが掲載されています。私の周りの内科医では、定期的に目を通している人が多いです。

July 8 号にて、Human Papillomavirus–Associated Cancers − United States, 2008–2012 という記事が掲載されています。2008〜2012年の間にアメリカ合衆国で発生した HPV との関係が濃厚ながんの発生数と、そのうちどの程度が HPV ワクチンを接種していれば予防されたか、推定値が報告されています。

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子宮頸がん Cervical carcinoma は 30-40代女性で最多ですね。腟 Vaginal SCC や外陰がん Vulvar SCC が年齢につれ増加するのと対照的です。やはりマザーキラーの異名は伊達ではありません


Summary = この報告の要点
このトピックについて今まで知られていること

HPV の持続感染が子宮頸がんや、外陰・腟・陰茎・肛門・直腸と咽頭の扁平上皮がんを起こす。それらのがんの多くは、HPV ワクチンによって予防可能である。効果的な子宮頸部スクリーニングにより、前がん病変を発見することができる。

このレポートによって加わった知見

2008-2012年の間に、平均すると年間 38,793人(10万人あたり 11.7人)が HPV 関連がんと診断された。うち 23,000人(13.5人/10万人)が女性で、15,793人(9.7人/10万人)が男性だった。それらのがんのうち、30,700人(79%)が HPV によるものと推定され、うち 28,500人は、9価 HPV ワクチンで予防可能な HPV 血清型が原因と推定される。

公衆衛生を向上させるには何をすれば良いか

全員にワクチン接種を提供することが、これらの HPV 関連がんを予防することに繋がる。HPV ワクチン接種率の増加や、子宮頸がん検診方法の変更がこれらのがんの発生動向に与える影響をモニターするため、より高品質の住民レジストリを用いて、HPV 関連がんのサーベイランスを続けることが必要である。


がんのうち、HPV 16, 18, 31, 33, 45, 52, 58 = 9価 HPV ワクチンで予防される HPV 関連がんの人数と百分率が一番右のカラムに書かれています。子宮頸がん Cervical では 80.9% です。これは、その国によって異なりますから、日本でもこのような統計を継続的におこなう必要があります。

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世界は、すでに 2価、4価 HPV ワクチンでなく、9価 HPV ワクチンがスタンダードになってきています。日本では心因反応やヒステリー反応を HPV ワクチンのせいだ、とする少数意見をマスメディアが大きく報道し、あたかも HPV ワクチンが危険であるかのような空気が生じ、合理的な議論がなされず、停滞しています。

いま HPV ワクチン接種機会を逃した 13-16歳の女性達が、2030年ころに子宮頸がんを発症します。その頃になって後悔しても遅いのですが、合理的な判断をしないのも、人間の特性でもあるので、仕方ないのでしょうか。

posted by 久住英二 at 16:22| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 感染症 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月16日

妊娠後期のジカウイルス感染

Zika Virus Disease in Colombia − Preliminary Report


小頭症の原因となるジカ熱、もしくはジカウイルス感染症(ZVD)は、妊娠後期に感染しても、胎児の小頭症は起きない可能性が高い、コロンビアから報告がありました。

A total of 11,944 pregnant women with ZVD were reported in Colombia, with 1484 (12%) of these cases confirmed on RT-PCR assay. In a subgroup of 1850 pregnant women, more than 90% of women who were reportedly infected during the third trimester had given birth, and no infants with apparent abnormalities, including microcephaly, have been identified. A majority of the women who contracted ZVD in the first or second trimester were still pregnant at the time of this report.

妊娠後期に ZVD を発病した 1850 人のうち、90% が出産し、現時点では小頭症などの明らかな先天性障害は認められなかったそうです。

他の先天奇形を生じる感染症(TORCH 症候群)も、妊娠初期ほど問題が生じやすい、ということが知られており、ジカ熱も同様の振る舞いをする可能性があります。風疹では、妊娠20週までの感染で、何らかの先天性風疹症候群が生じることが知られています。

ただし、妊娠前期、中期に ZVD を発病した妊婦達は、まだ出産時期を迎えておらず、どの時期までが安全なのかは未だ分からない、という経過報告です。
posted by 久住英二 at 08:40| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 感染症 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月14日

抗生剤の効かない細菌

Emerging Infectious Disease (= 新興感染症)という医学雑誌に、コリスチン耐性菌が日本にも沢山いました、という話が載っています。

コリスチンとは、古くからある抗生物質です。今のところ多剤耐性グラム陰性菌に有効のことが多く、伝家の宝刀として大切に使われています。

多剤耐性緑膿菌(グラム陰性菌の代表格)は、私が病棟で白血病患者さんの化学療法や骨髄移植に携わっていた頃から大きな問題でした。抗がん剤治療で白血球がゼロになると、腸の中に棲んでいる細菌が血液中に入ってきて、勝手に熱が出ます。臍帯血移植の時は、白血球が増えてくるまで20日もかかります。その細菌に多剤耐性菌が含まれていると、抗生剤では助けることが出来ず、敗血症となります。グラム陰性菌は、毒素によってショック状態(=血圧が下がり、生命を維持するための臓器の働きが損なわれること)となり、多くの患者さんが命を奪われます。
白血病をコントロールできずに患者さんが亡くなることは、無念ですが仕方がありません。しかし、白血病がコントロールされているのに感染症で患者さんが亡くなることは、医療者にとってはとても残念で悔しいことです。
当時コリスチンが使えたら、救えた患者さんが大勢います。

さて、そんな重要なコリスチン。必要なときに、必要なだけ使うようにしないと、他の抗生剤と同様に耐性菌が増えてしまいますね。ですが、実はじゃんじゃん使われて、耐性菌が増えています。ただし、ブタでの話。コリスチンは、家畜(おもにブタ)の飼料に配合され、世界中で大量に消費されています。なぜ家畜の餌に抗生剤を混ぜるかというと、細菌感染で下痢したりすると、体重の増えが悪く、経営に響くからです。

2015年は、中国から輸入した豚肉からコリスチン耐性菌がヨーロッパ各国で検出され、ちょっとした騒動になっていました。
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今回の報告では、健康なブタでなく、病気になったブタで、コリスチン耐性菌と、mcr-1 というコリスチン耐性の原因となる遺伝子の検出率を調べています。これによると、2009年ころから、かなり検出されるようになっているようです。
実線の折れ線グラフが mcr-1 検出率で、この数年で 50% 以上に急上昇していることが分かります。この mcr-1 という遺伝子、プラスミドという移動する遺伝子に乗って、となりの細菌にどんどんと拡がってしまう、という厄介なものなのです。臨床の現場で問題となっている多剤耐性菌がコリスチン耐性も獲得するのは時間の問題なのでしょう。

自分たちに出来ることは、不要な抗生剤を極力使わないこと、しかありません。明らかに細菌感染であれば、適切な抗生剤治療は必要です。しかし、風邪や急性胃腸炎のように、ほとんどがウイルスが原因の感染症で抗生剤を使うことは慎むべきです。



posted by 久住英二 at 12:40| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 感染症 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする