2016年06月14日

抗生剤の効かない細菌

Emerging Infectious Disease (= 新興感染症)という医学雑誌に、コリスチン耐性菌が日本にも沢山いました、という話が載っています。

コリスチンとは、古くからある抗生物質です。今のところ多剤耐性グラム陰性菌に有効のことが多く、伝家の宝刀として大切に使われています。

多剤耐性緑膿菌(グラム陰性菌の代表格)は、私が病棟で白血病患者さんの化学療法や骨髄移植に携わっていた頃から大きな問題でした。抗がん剤治療で白血球がゼロになると、腸の中に棲んでいる細菌が血液中に入ってきて、勝手に熱が出ます。臍帯血移植の時は、白血球が増えてくるまで20日もかかります。その細菌に多剤耐性菌が含まれていると、抗生剤では助けることが出来ず、敗血症となります。グラム陰性菌は、毒素によってショック状態(=血圧が下がり、生命を維持するための臓器の働きが損なわれること)となり、多くの患者さんが命を奪われます。
白血病をコントロールできずに患者さんが亡くなることは、無念ですが仕方がありません。しかし、白血病がコントロールされているのに感染症で患者さんが亡くなることは、医療者にとってはとても残念で悔しいことです。
当時コリスチンが使えたら、救えた患者さんが大勢います。

さて、そんな重要なコリスチン。必要なときに、必要なだけ使うようにしないと、他の抗生剤と同様に耐性菌が増えてしまいますね。ですが、実はじゃんじゃん使われて、耐性菌が増えています。ただし、ブタでの話。コリスチンは、家畜(おもにブタ)の飼料に配合され、世界中で大量に消費されています。なぜ家畜の餌に抗生剤を混ぜるかというと、細菌感染で下痢したりすると、体重の増えが悪く、経営に響くからです。

2015年は、中国から輸入した豚肉からコリスチン耐性菌がヨーロッパ各国で検出され、ちょっとした騒動になっていました。
スクリーンショット 2016-06-14 12.16.03.png


今回の報告では、健康なブタでなく、病気になったブタで、コリスチン耐性菌と、mcr-1 というコリスチン耐性の原因となる遺伝子の検出率を調べています。これによると、2009年ころから、かなり検出されるようになっているようです。
実線の折れ線グラフが mcr-1 検出率で、この数年で 50% 以上に急上昇していることが分かります。この mcr-1 という遺伝子、プラスミドという移動する遺伝子に乗って、となりの細菌にどんどんと拡がってしまう、という厄介なものなのです。臨床の現場で問題となっている多剤耐性菌がコリスチン耐性も獲得するのは時間の問題なのでしょう。

自分たちに出来ることは、不要な抗生剤を極力使わないこと、しかありません。明らかに細菌感染であれば、適切な抗生剤治療は必要です。しかし、風邪や急性胃腸炎のように、ほとんどがウイルスが原因の感染症で抗生剤を使うことは慎むべきです。



posted by 久住英二 at 12:40| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 感染症 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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