2014年07月22日

B型肝炎の免疫がつかないんです!

今回の内容は一般の方(医療者にも?)にはなかなかの難易度ですが、大切なコトなので、是非お読みいただきたいです。


B型肝炎という厄介な病気があります。

体液を介して容易に感染するため、医療従事者や保育士、介護職はもちろんのこと、全員が免疫をつけておいてほしい感染症です。


CDC Yellow Book 2014 によると、日本は肝炎の慢性感染者が 2〜4%いる、とう low-intermediate risk の国に分類されています。

hepBmap.png

米国CDCは、渡航国別に必要なワクチンを教えてくれるサイト TRAVELERS' HEALTH で、日本に渡航する人に対して、B型肝炎ワクチンは以下のように推奨されています。

Consider for most travelers; recommended for those who might be exposed to blood or other body fluids, have sexual contact with the local population, or be exposed through medical treatment (e.g., for an accident).

翻訳:ほとんどの渡航者が考慮すべきワクチンである。血液や体液に触れる可能性のある人、もしくは現地で性的接触をする人。そして、(たとえば事故に対する)医療行為での接触する可能性がある人には推奨される。



ネグレクトされているB型肝炎ワクチン

日本国内では、定期接種(予防接種法による、接種の努力義務があるワクチン)にB型肝炎ワクチンは組み込まれていません。

B型肝炎訴訟をうけて?拵えられている厚生労働省の肝炎総合対策にも、ワクチンのことは一言も触れられていません。

厚生労働省 肝炎総合対策に関する Q&A

hepB.png

せめて Q9. 肝炎ウイルスに感染している家族がいますが、ワクチンは受けるべきでしょうか。くらいあっても良いよね・・・。検査は推奨するけれどワクチンは二の次、というのは風しん対策でも同様ですね。


さて、今回の本題です。B型肝炎ワクチンを3回打ったのに、免疫がつかないんです!という相談は、よくいただきます。

今回参考にしたのは、Plotkin らによるワクチンの教科書『VACCINES』です。分厚いので、購入するなら Kindle 版をお勧めします。


抗体獲得率

3回のB型肝炎ワクチン接種で、免疫が得られる(指標となる HBs抗体価が 10 mIU/mL 以上に上昇する)率は
・乳児:95%以上
・青少年:95%以上
・成人:40歳未満では90%以上
・成人:60歳では75%程度
とされています。

抗体獲得率が低下する要因は、年齢(40〜60歳では年齢と共に抗体獲得率は低下)、糖尿病や血液透析、喫煙、肥満、HIV感染、遺伝的背景などです。


3回接種後、抗体価が 10 mIU/mL に達しなかった方は、もう1回追加することで、25〜50%の人が反応するとされています。もう3回接種を繰り返すことで、44〜100%が反応するとも報告されています。追加接種での反応が得られ易いのは、抗体価が10未満だけれど、少し上昇している人だそうです。

再接種の際に、ワクチンを倍量(2バイアル分を一気に!)接種することの有効性は示されていません。ただし Recombivax HB というB型肝炎ワクチンの臨床試験の結果を見ると、倍量接種は有効かも知れない、とも思います。Recombivax HB は、免疫がつきにくい透析患者さん用に、4倍量の抗原(ワクチンの成分)を含んだ Dialysis formulation という剤形があります。
下表の左端のカラムに Dose とありますが、これが接種した抗原量です。20 mcg40 mcg を比較すると、12ヶ月時点での HBs 抗体が 10 mIU/mL を越えた人が、それぞれ 34%67% であり、抗原量を増やすことで抗体価が上がりやすくなる、という側面はあるようです。

recombivax.png
FDA ホームページより(一部改変:着色部分)

ちなみに、日本ではB型肝炎ワクチンも皮下注射されることがありますが、筋肉注射すべきです。抗体獲得率が違います。

HBs抗原、HBs抗体及びHBc抗体が陰性の成人及び小児に本剤0.5mL (小児は0.25mL) 3回接種後の抗体陽転率は、成人で92.4% (1,438/1,557例)、小児で100% (88/88例) を示した。成人について投与経路間で比較すると、筋肉内投与では95.0% (662/697例) と皮下投与の90.2% (776/860例) に比べ、やや高い抗体陽転率を示した。


3回受けなきゃ意味ないの?

B型肝炎ワクチンは、1回目接種で33〜50%、2回目接種で75%の人が免疫が得られるので、海外渡航に際しては、4週間隔で2回まで済ませて渡航すれば、4人中3人では免疫が得られることになります。日本で暮らしていく上でも必要なワクチンなので、ぜひ渡航先もしくは帰国後にも3回目の接種を受けましょう。3回目の接種は、初回接種後1年経っても有効です。


ワクチンの有効率

HBs抗体価が上昇していても、感染が起きていたら意味がありません。なので、ワクチン接種後の人で感染が起きていないかを調べて、有効性が検証されています。
医療従事者を対象とした研究では、ワクチン接種後の人と、未接種の人を比較すると、B型肝炎ウイルスの感染(B型肝炎の発病、もしくは接種3ヶ月後以上たってからの HBs 抗原陽性化)は、92〜100%防御されています。ほか、男性と性交渉をする男性(MSM)や、血液透析患者での研究でも、80%以上の有効率が報告されています。


免疫はいつまでもつのか?

小児では、乳児期に接種して5〜15年経つうちに、15〜50%の人がHBs抗体価が低下ないし検出されなくなります。成人でも、接種5年後には7〜50%の人がHBs抗体価が 10 mIU/mL 以下となり、9〜11年後には30〜60%の人がそうなります。
抗体価が維持される期間は、人により異なりますが、接種後の HBs抗体価が高い方が、保ちが良いです。

ただし、HBs抗体価が低下・陰性化したら、ワクチンの効果が無いのか?というと、そうではありません。接種後10〜15年後に追加接種をすると、90%以上の人がHBs抗体が上昇したり、陰性化していた人が陽転します。これは、免疫を記憶したリンパ球が体内に残っていて、ワクチン接種に対して速やかに反応することを示しています。

実際の予防効果については、ガンビアでの研究で、接種20年後の調査で、B型肝炎の感染が83.4%、キャリア化が96.5%予防されたと報告されています。他にも同様の報告が多数あり、長期にわたりワクチンが有効であることが示されています。

感染リスクが高くない人は、1シリーズ(3回)接種を受けたら、追加の接種はあまり必要がないと考えられています。リスクのある人では、5年おき程度に追加接種を受けて、HBs抗体価を高めに保っておいても良いと考えられます。医療従事者や、保育や介護従事者、家族および親族にB型肝炎キャリアがいる人などがこれにあたります。


気をつけたい父-子または祖父-孫感染

本題とは外れますが、大切なことなので。

女性は、妊娠するとB型肝炎感染のチェックを受けます。しかし、夫や家族はノーチェックです!実際、父親や祖父から子どもや孫へのB型肝炎感染が起きています!!
祖父→孫→父への感染例の報告

妊婦さんの家族はB型肝炎感染のチェックを受け、感染に気をつけるとともに、是非ワクチン接種を受けましょう。また、生まれてきた赤ちゃんには、ぜひB型肝炎ワクチン接種を受けさせてあげて下さい。
posted by 久住英二 at 06:00| 東京 ☁| Comment(7) | TrackBack(0) | ワクチンの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最近のb肝の感染は血液感染もそうですがsexでの感染が多いことをきちんと伝えてほしかったです…。
昼の番組でしかたがないと思うのですが…
せめて性感染でもあることは伝えてほしかったです。
Posted by キャリアです。 at 2014年07月24日 13:25
先生もほとんどが性交渉による感染と書いているのに…
テレビでは言えないものなのでしょうか?
Posted by キャリアです。 at 2014年07月24日 15:32
『キャリアです。』さん
コメントありがとうございます。
大切なのは、肝炎に罹る人を減らすことです。
性交渉による感染が多いのは事実ですが、それを言い過ぎると、B型肝炎=性病というイメージが強くなり、母子感染などによるキャリアの方が不当な差別を受けたり、カミングアウトしにくくなりますよね。
どう伝えるべきか、私もまだまだ迷いがあります。
Posted by 久住英二 at 2014年07月27日 23:26
久住先生、どこの誰ともわからない者のコメントに回答ありがとうございました。
確かにその通りで中途半端な知識しかない人からの差別等でカミングアウトしにくい状況ではあります。医師でさえ専門外だと何十年も前の知識しかない方もいます。
私も家族以外には誰にも言っていません。
先生のような医師に日本のどこにいても診ていただけるようになればいいのですが。
まだまだ暑くなりますのでご自愛ください。
Posted by キャリアです。 at 2014年07月29日 13:26
先生、回答ありがとうございました。
確かに中途半端な知識しか知らない人からの不当な差別を受ける可能性があります。
私も家族以外には言っていません。
肝炎に罹る人が少なくなることを祈っています。
ほんとうにありがとうございました。
Posted by キャリアです。 at 2014年07月29日 13:42
『キャリアです。』さん
ありがとうございます。
キャリアの方に限らず、病者の苦悩は、医療者含め他人には「自分のこととして感じる」ことができません。ですから、意図せず人を傷つけてしまうことがありますね。
是非、これからもブログに「そりゃおかしいだろ〜」などコメントくださいね。
Posted by 久住英二 at 2014年07月29日 17:56
B型肝炎ウイルスの持続感染者です。肝癌の研究員です。いつまでたってもHBs抗原陽性・HBs抗体陰性です。おかげさまで抗原と抗体が戦って(抗原抗体反応)いないのでこの数十年間、慢性肝炎・肝硬変・肝細胞癌なるものとは全く縁がありませんでした。今後のことはわかりませんが肝炎・肝癌の研究員としての私は今後も縁のない状態が続くはずです。抗体陰性も悪くはございませんよ。
Posted by 工藤憲雄 at 2015年09月21日 17:35
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